Hokkaido Culture Column
北海道の最東部、知床ねむろエリア
野生生物と人、海と陸の自然が共生する世界
野生生物の楽園 知床ねむろエリア
野生生物
日本の北部・北海道の最東部にある、知床ねむろエリア。知床の東の玄関口である根室中標津空港を拠点に、女満別空港や釧路空港からも2時間圏内にある場所です。
知床世界自然遺産・知床国立公園エリアが大部分である知床半島は、北半球における流氷の南限とされ、冬期にはロシアのアムール川から流れてくる氷によって海を埋め尽くされます。ですが、この流氷がもたらす植物プランクトンによって、多種多様な海の生態系が育まれ、海の水槽と言われるほどの様相を呈しています。
この地域で注目すべき点は、豊かな自然の中でのアクティビティの数々です。絶妙な距離を保った中でのシャチやヒグマをはじめとした野生生物との出会いは、ツアーの中でも忘れられない体験となるでしょう。また、鮭がもたらす人と自然の交差点であることから名づけられた「鮭の聖地」の歴史文化に触れることもできます。
このエリアで最も重要な魚類とされているのは、シロサケやカラフトマスなど、海と川を行き来するさけ・ます類です。
さけ・ます類はシロサケやカラフトマス以外にも、多くの種類が生息しています。これらはヒグマやキツネなどの動物のほか、シマフクロウやオオワシ、オジロワシなど絶滅の恐れがある猛禽類の食糧にもなっています。つまり、知床の自然はこれらのさけ・ます類によって支えられているのです。
また、この地域は、火山活動による険しい山岳地形や、流氷や風による浸食で形成された崖や砂嘴、大地を覆う原生林と、美しい湿地帯や湖沼群など多様な景観が存在しています。
これらの地形や気候は、人々に癒しを与えるだけでなく、渡り鳥の繁殖地や休息地として最適であり、北方系と南方系の海鳥が入り混じって渡来する根拠となっています。
このように、知床ねむろエリアはわずか直線距離にして200km範囲の中で、多様な自然景観があり、かつ多くの野生生物の生命の営みを支えている、いわば野生生物の宝庫ともいうべき地域です。
その中で暮らす人々は漁業や酪農業を生活の基盤として、大地や海からのおすそ分けをいただきつつ、また同時に自然環境の保護や、復元を行っています。
そして、この地域には野生生物を観察するアクティビティが数多く存在しています。
船を活用したり、各種のアクティビティを体験することで適度な距離を保ちつつ、観察することができます。
観察できる生物の時期と種類は下記の通り。
その他にも、エトピリカやケイマフリと言った希少な海鳥や、多数の動植物が観測できることで知られており、各国からのバードウオッチャーの聖地となっています。
まさに、野生生物の楽園と言っても過言ではないエリアです。
さて、野生生物の楽園にお邪魔し、快適に彼らの観察を行うならば、季節に合った服装と装備が必要です。
夏は比較的涼しく、最高で25度前後、最低でも14度前後と過ごしやすい気温です。しかし、冬季は-20度まで気温が下がり、最高でも0度を超えない日も続きます。また、北海道の他の地域に比べるとそこまで多くはないものの、積雪もあります。
さらに、冬のクルーズで海の上の猛禽類を追うならば、さらに厳重な衣服が必要となります。快適に見るならば双眼鏡とカメラは荷物に加えておくのがおすすめです。
季節と気候
日本の大部分の地域は温帯に属し、比較的温暖で降水量が多いが、1年の中でその変動が大きく、四季の変化がはっきりしています。また、緯度差25度と南北に長い列島に山脈が連なる地形と季節風が影響し合い、地域によって気候が大きく異なるのも特徴です。
その日本列島の北端に位置する北海道は、亜寒帯湿潤気候に属します。(一部を除く)
日本の他の地域と比べて、夏でも気温と湿度が比較的低くて過ごしやすい反面、冬の寒さは厳しく、積雪を伴います。そのため、季節にもズレが見られます。
気象庁(集計期間1991年〜2020年)のデータより
気象庁(集計期間1991年〜2020年)のデータより
▶︎ 春
■ 東京
(3〜5月)
この時期は、冬の寒さが和らぎ、徐々に暖かくなっていきます。日中は15度を超える日も多いが、朝晩の気温差が大きいです。3月下旬〜4月上旬には、桜が開花します。
〈服装〉
・重ね着で温度調節のできるセーターやカーディガン
・薄手のコートやジャケット
■ 札幌
(4月〜5月)
4月上旬でもまだ寒い日が続き、雪が残っているところもあります。4月下旬〜5月上旬に桜が開花し、GW明けからは陽気な日も増えるが、朝晩は冷え込みます。
〈服装〉
・4月は厚手のコート
・防寒グッズ(手袋やマフラーなど)
・撥水性の高い靴
・5月は薄手のコートやジャケット
・重ね着で温度調節のできるセーターやカーディガン
▶︎ 夏
■ 東京
(6〜8月)
6月上旬から7月中旬まで、梅雨という時期を迎え、雨の日が多くなります。梅雨が明けると、 30℃を超える気温と湿度の高い蒸し暑い日々が続き、35℃以上の日もあります。
また、夜でも気温が25℃以上の熱帯夜が多いのも特徴です。
〈服装〉
・半袖シャツ
・日よけ(帽子やサングラスなど)
■ 札幌
(6月:初夏)
5月下旬から6月上旬にかけては、暖かくなってきたと思ったら急に冷え込むという日も珍しくなく、札幌の6月はまだ夏とまでは言えません。
本州のような梅雨はないですが、7月にかけて蝦夷梅雨という10〜2週間程度天気の悪い日が続く時期があります。
〈服装〉
・半袖シャツや長袖シャツ
・羽織れるジャケットやカーディガン
・パーカー付き薄手アウター
(7〜8月:夏本番)
札幌の夏本番は、7月・8月の約2ヵ月間です。30℃を超える日も珍しくないですが、本州ほど湿度が高くなく、朝晩は比較的涼しいです。
ピークは2週間程度で、8月下旬には気温が下がる日も多いです。
〈服装〉
・半袖シャツ
・日よけ(帽子・サングラスなど)
・8月末は羽織れる長袖シャツ
▶︎ 秋
■ 東京
(9〜11月)
夏の終わりごろから9月にかけて、大雨や強風を伴う台風という低気圧が上陸したり、付近を通過したりして、天候が荒れます。9月は残暑が厳しいですが、10月になると晴天の過ごしやすい日が多くなります。
10月下旬から11月上旬にかけては、紅葉が見られます。
〈服装〉
・9月は半袖シャツ
・10月は長袖シャツ
・11月はジャケットやセーター
■ 札幌
(9〜10月)
9月に入ると日差しが和らぎ、過ごしやすい時期となります。しかし、本州ほどの影響はありませんが、台風が上陸したりします。
9月下旬〜10月にかけては、紅葉が進むと同時に1日の寒暖差が大きくなり、急速に冷え込んでいきます。
〈服装〉
・9月は薄手のジャケットやセーター
・10月はコート
▶︎ 冬
■ 東京
(12〜2月)
寒さが厳しくなり、ときには雪が降ることもありますが、積もることはほぼありません。晴れた日が多く、降水量が少なくなり、乾燥した日が続きます。
〈服装〉
・セーター
・コート
・防寒グッズ(手袋やマフラーなど)
■ 札幌
(11〜3月)
10月下旬から11月の上旬にかけて初雪が降り、12月に入ると根雪になり、平均気温は氷点下になります。最も寒いのは、1・2月で、−10℃以下になる日もあります。
3月下旬になると雪の日も減り、雪解けが進みます。
〈服装〉
・セーターやカーディガンなどのインナー
・厚手のオーバーコートやダウン
・防寒グッズ(手袋やマフラー、ニット帽など)
・雪道対応の靴
産業
さて、この地域の主要な産業は漁業と酪農です。
古代から人が住まうほど豊かな海の資源に恵まれ、200年以上前には将軍家にも献上されていた歴史があるほど、高品質な魚類がこの地域の産物。根室海峡の鮭は、時を越え人々を魅了してきました。一万年前から続く人の営みや、繰り返された異文化の衝突と交流。
この地の歴史は、鮭という豊かな天然資源をめぐり織り成されてきました。幕末に一人の会津藩士がこの資源に着目し、水産業の芽を育てます。そして現在、その芽は全国の食卓とつながる基幹産業へと成長しました。
その知床の生態系を支える鮭をはじめ、無形文化遺産の「和食」の特徴である「うまみ」の基となる「出汁」に必要な昆布やそれをエサにしているウニ、そして世界的にも珍しい冬の結氷した湖の上で行われる「氷下待網漁」で獲れる氷下魚やワカサギ、そして流氷が迫る海で獲れるホタテや、流氷明けの海で獲れる蟹など、どれも特色のある海の恵みばかりです。
また、漁業が一時衰退した際に、人々の生活の糧となった酪農も忘れてはいけません。
この酪農は、宇宙からも観測できるほど広大で、かつ美しい格子状防風林に代表される牧草地の景観を形成しているだけでなく、日本中においしい芳醇な牛乳やチーズといった大地の恵みをもたらしています。
この知床ねむろ地域を訪れた際は、このような産業に関わる人々の暮らしを間近で体験したり、その方々が毎日提供している新鮮な食材を味わってみては。
海と陸の自然と、人との共生。
野生生物と人と自然が交わる交差点を、ぜひ体感してください。